26年間の米国での生活を経て、2019年よりつくば市で小中学生を中心に実用英語を指導してきましたが、5年目である2023年は、日本の英語教育大転換の年になりました。
- 2020年4月の小学校英語の教科化(2024年4月に教科書改訂)
- 2021年1月の共通テスト開始
- 2021年4月の中学教科書改訂
- 2022年4月の高校英語科目変更:「英語コミュニケーション」「論理・表現」に
という流れで文科省からトップダウン式に降りてきた新しい英語教育の方針が、いよいよ小中高の現場レベルにまで浸透してきています。今回の記事では、2023年時点の小中高の英語教育現場での変化を整理し、今後の展望を共有させていただきます。
保護者の皆様が、今後のお子様の英語教育の戦略を立てる際の一助にしていただけると幸いです。
もくじ
2020年に始まった静かな大転換
上に挙げた4つのうち、特に2021年4月の中学教科書改訂が話題になりました。学校や塾の反応は、
- 単語の語数が変わった
- 文法項目が増えた(高校から降りてきた)
から生徒の負担が増えるといったネガティブな反応が多かったように思います。
覚えることが増えたからより早期に英語学習を始める必要があるという論調です。(今でも耳にします。)果たしてその見方は正しいのでしょうか?
「文法訳読中心の今までの学び方で、スタート時期だけ早めれば、必要な英語力が身に付くのか?」
どうでしょう。そうは思えませんよね。
今回の大転換、新学習指導要領の本質は単語数の増加や文法項目の前倒しでは決してありません。
国際社会でより活躍できる次世代を育てるという文部科学省の長期的なビジョンに基づいた今回の新たな方針は、単なる教育カリキュラムの変更以上のもので、こどもたちの英語の学びに対する新しいアプローチを反映しているのです。小中高、そして大学入試に渡る英語の学び方の大転換の本質をしっかり掴んで「安心して」「冷静に」そして「着実に」こどもたちが将来必要になるスキルを身につけるサポートをしていきましょう。
ここではまず、3年をかけて2023年に教育現場にその姿を現してきた変化の具体例、つまり「何がどう変わったのか?」入試や各種テストを例に紹介していきます。
高校・大学入試英語が英検を追い越した?今や「実用英語化」をリードする入試英語
結論から言ってしまうと、この大転換の本質は、英単語の意味や文法説明を日本語ベースで覚えるのではなく、英語を「使って」学び、働き、生活し、協力し、問題を解決する英語を駆使していろいろな課題を解決していく能力をこどもたちに身につけさせることにあります。簡単に言うと学びの目的が「日本語ベースの知識」の蓄積から「英語ベースの実用英語」つまり、「英語を運用する能力の育成」に変わったというとことです。そして、2023年になって各種英語テストがその方向に本格的に大幅に舵を切ってきているのです。
例えば、首都圏の公立・私立高校の入試問題を見てみるとその変化は明らかです。
大学入試だけでなく高校入試においても、親世代の入試で主流であった穴埋めや並べ替えなどの文法問題は消滅し、リスニング・リーディングとも長文化、グラフやチラシ、スケジュール表などの資料と併せて正しい情報を選択する問題や論理構造、文章の要旨を問う問題が9割を占めています。
そして、興味深いことに、本来実用英語の機能を測るテストである英検が、学校英語、入試英語の急激な変化に遅れをとっています。ちなみに英検の正式名称は「実用英語技能検定」。英検よりも入試問題が先に「実用英語化」しているんですね。
実例として2023年度神奈川県公立高校の入試問題を挙げておきます。クリックすると長文問題の部分が開きます。一度クリックしてみて下さい。親世代の高校入試英語との質と量の違いに驚かれると思います。
https://static.tokyo-np.co.jp/tokyo-np/pages/PDF/k-shiken/2023/kng_en.pdf#page=7
英検のリーディング、リスニング問題と比較して、正しい答えを導き出すのにより多くの実用英語の技能が要求されます。
そして2023年以降の学校英語はよりグローバルな学び方に – 喜ぶべき変化ではあるが混乱も
学校英語で求められる英語力が大幅に変わったことは中長期的に喜ばしい、喜ぶべき変化です。ただし短期的には、つまり2023年時点で大きな変化にさらされている多くの中高生にとっては混乱を意味します。
昨年までは中3になってから聞こえてきていた
「テストが急に長文問題ばかりになった」
「長文の量が急に増えた」
という戸惑いの声が、2023年は中2後期の定期テストの時点で聞かれるようになりました。
上記の記事で示したように、この問題への解決策は英語の学び方を根本から変えることです。まず簡単な文章から英語を英語のまま内容をイメージして読み始め、それを習慣化すること。英語を英語のまま読むことが当たり前になる継続的な学びが必要です。
グローバルな学び方を先取りした学園の森 ENGLISH の英語学習方法
学園の森 ENGLISH では私(TF)の26年間の米国での生活(学生として、社会人として、英語で生活し協業する経験)を元に
「この英語のスキルをもっと磨かないと。」そして、
「渡米前にこの英語の学び方で学んでおけばよかった。」
という実体験と反省を元に、日本人のこどもたちが将来グローバルに活躍する姿を想像しながら、こどもたちが無理なくこの新しい英語の捉え方を身につけられるカリキュラムを作成、改善し続けています。なので、今回の学校英語の「実用英語化」は大歓迎。ワクワクしています。
もう一度言います。
「2023年、日本の英語教育は根本的に変わった」
のです。そして今後その変化のスピードは速まり、変化への対応の仕方で英語力が二極化します。この変化を先取りし、こどもたちに新しい英語の学び方を伝えてくことが学園の森 ENLGISHの使命です。安心してください。「冷静に」変化を受け止め、「着実に」力をつけていきましょう。
以下、より詳細な内容になります。
新しい英語の学び方とは?
今までお話ししてきたように、今回の日本の英語の学び方の大転換は、単なる教育カリキュラムの変更以上のもので、こどもたちが英語を学ぶ方法に対する新しいアプローチを反映しています。この変化は、国際社会でより活躍できる次世代を育てるという文部科学省の長期的なビジョンに基づいているのです。
そしてその新たなビジョンが2023年度に入試問題、定期・実力テストという形で、現場レベルで具現化していることをお話ししてきました。次に「今後どう変わっていくのか?」日本の英語教育の将来像を予測してみます。
まず第一に、これまでの英語教育は読み書きに重点を置いていましたが、2020年からの改革では、実践的なコミュニケーション能力への重点が移りました。これには、スピーキングとリスニングのスキルを強化することが含まれます。実際の生活や実務で英語を使う能力を伸ばすことが、この新しいアプローチの核心です。
次に、英語教育の早期化が進みました。これまでは中学校から本格的な英語教育が始まっていましたが、2023年からは小学校低学年から英語に触れる機会が増えました。これは、言語習得のための「クリティカルピリオド」に対応するもので、こどもたちが自然に英語を吸収するのに最適な時期を捉える狙いがあります。単語や文法ルールをより多く覚えることが狙いではありません。
さらに、教育方法にも革新が見られます。従来の記憶に基づく学習から、クリティカルシンキングや問題解決を伴う実践的な学習へとシフトしています。例えば、ディベートやプレゼンテーションといった活動を通じて、生徒たちは英語を使って自分の意見を表現する方法を学びます。
このような変化は、グローバル化が進む中で、英語を母国語としない人々が国際社会で生きるための必須スキルを身につけることを目的としています。文部科学省は、これらの変更を通じて、生徒たちが将来、国際舞台でより自信を持って行動できるようサポートすることを目指しています。
保護者の皆様にとって、これらの教育の変化は、こどもたちが将来的に多様な文化的背景を持つ人々と効果的にコミュニケーションを取る能力を育む大きなチャンスです。英語教育の新しい流れに積極的に関わり、こどもたちの学習をサポートすることが重要です。
高校入試、大学共通テストの変化、そして英検との比較
近年、日本の英語教育の変革が進む中、高校入試や大学共通テストの英語の問題も大きな変化を遂げています。特に、大学共通テストは2020年にセンター試験から移行し、その内容や形式が注目されています。これらの試験の英語の変化と、英検との比較について詳しく解説します。
大学共通テストの英語の変化
大学共通テストの英語では、センター時代のように問題ごとに、文法、会話文、長文のような区分がなくなり、全問、図表を読み取る情報処理型の問題に移行し、テーマが毎回変わるため、過去問を使った単純な傾向と対策が困難になっています。
例えば、リーディングの部分では、従来の読解問題に加えて、リーディングの問題でライティングの英語力を測る問題が出てきています。これは、英語の授業で書いた文章に先生がコメントを書いている形式の問題や、授業中の生徒のスマホ使用に関する意見を読み取り、エッセイのアウトラインを作成する問題などが出題されています。
従来のセンター試験と比較して、思考力や判断力、表現力が重視される問題が増えています。具体的には、読解力だけでなく、リスニング能力も重要視されるようになりました。また、問題の内容や形式も変わり、より総合的、実践的な英語力が求められるようになっています。
リスニングの部分では、大学の講義の要点をグループメンバーで話し合う問題や、講義の内容についてディスカッションしている内容を聞き取る問題などが出題されています。ここでも日本語を介さず英語から状況や内容をイメージして理解する力が必要になってくるんですね。
2023年10月23日に大学予備校の武田塾から投稿された以下の動画の中でも、共通テストリスニング対策として英語から「状況や内容をイメージして」理解する力の必要性が紹介されています。共通テストを皮切りにした小中高の学校英語の学び方の大転換を象徴しています。
「日本語を介さない英語のインプット・アウトプット」力を測るテストが、大学入試から高校入試、中学実力テスト、定期テストへと浸透し、英検にも波及、日本の英語教育の主流になっていくという流れがより明白になりました。
前回の記事で、訳読中心の英語学習に警鐘を鳴らしましたが、今後訳読をしていると終わらないテストがどんどん増えていきます。訳読が習慣化する前に、そして理想は英語学習の初期段階からこの学び方で英語学習を進め、「日本語を介さない英語のインプット・アウトプット」を習慣化していくことが日本でも今後英語学習の本道になっていきます。
英検との比較 – 今後、より実用英語化する入試英語
英検は、日本での英語能力を測るための試験として、長い歴史を持っています。英検はリーディングやリスニングはもちろん、英作文問題も採用されており、ライティングの能力も問われます。この点では、大学共通テストの英語と似た傾向があります。
しかし、英検はCEFRに基づいて設計されており、具体的なレベルに応じた試験内容となっています。一方、大学共通テストや高校入試の英語は、より文科省の指導要領に基づいて設計されているため、2021年度より急速に変化(大転換)しているのです。
そして入試英語が定期テスト、そして授業内容を変えていきます。定期テスト、授業の変化は実用英語に慣れた生徒の増加をもたらし、この変化に対応できる生徒とそうでない生徒の二極化を生み、入試英語、そして英検もより長文化、論理構造、文章の要旨・内容の推測や要約など実践的な英語能力を問う試験へと進化していくと予測します。(そして2023年度の問題に既に変化が見て取れます。)
まとめ
高校入試や大学共通テストの英語の問題は、近年の英語教育の変革を反映して進化しています。2021年の大学共通テストの変化に準じて、高校入試や中学の定期テストもより総合的な学力を求める内容となっており、英検もその変化を追従する形で変化していきます。今後、英語を学んでいく生徒や保護者、そして我々英語を教える立場も含めて全ての英語学習者は、その変化を理解し、適切な対策を行うことが今後ますます重要になっていきます。